温泉の現場では、「見た目が持たない」「ボルトが先に逝く」「交換工事が読めない」といった悩みが繰り返し発生します。
これは偶然ではなく、温泉が金属にとって最難環境だからです。
そこで本コラムでは、添付の耐食性試験結果(強酸性泉・高温泉の条件)を根拠に、
温泉チタンがなぜ圧倒的に有利で、長期耐久性と安全性から見たときに
最大のコストパフォーマンス(TCO最小)につながるのかを、建築実務の言葉で整理します。
【目次】
温泉で金属が錆びる理由(温泉腐食の本質)
「温泉で金属が錆びる」という現象は、単に“屋外だから”では説明できません。
温泉地の腐食(温泉腐食)は、主に次の三つが同時に作用して加速します。
- 強い酸性:pHが低いほど、金属表面の保護皮膜が破れやすくなります。
- 高温:温度が上がるほど化学反応は進み、腐食速度も上がります。
- 塩化物イオン:ステンレスの孔食(ピンホール状の局部腐食)を誘発しやすい要因です。
つまり温泉は、材料にとって「酸」「熱」「塩(塩化物)」が重なる場所です。
この条件下では、一般的に“耐食性が高い”とされる金属でも、想像以上に早く劣化が進むことがあります。
結果として、部材の更新頻度が上がり、足場・休業・安全対策・景観修繕といったコストが積み上がります。
温泉の環境条件:強酸・高温・塩化物(例:川湯温泉/登別温泉)
添付資料では、代表的な温泉地の条件が整理されています。ここでは要点のみ表にまとめます。
重要なのは、温泉地によって“厳しさのタイプ”が異なることです(強酸タイプ/高温タイプなど)。
| 項目 | 川湯温泉(例) | 登別温泉(例) |
|---|---|---|
| 酸性度(最強酸洗値) | pH 1.7 | pH 2.3 |
| 塩化物イオン | 1430 mg/L | 24.7 mg/L |
| 源泉温度 | 50℃ | 90℃超 |
| 備考 | 酸性・含硫黄・鉄(II) 等の要素がある温泉条件 | 硫黄泉・食塩泉等の要素がある温泉条件 |
※出典:N社提供資料(2024/3/19)より要点抜粋(数値・温度)。
pH 1.7という強酸性、さらに温度90℃超という高温条件は、建築金物にとって極めて厳しい部類です。
温泉腐食を“発生してから対処”するのではなく、材料選定の段階で腐食シナリオを潰すことが、
長期運用では最も合理的になります。
試験結果:純チタンは腐食速度0.00mm/年(SUS304・アルミとの差)
川湯温泉水を用いた金属減肉試験の結果を示します。
試験温度は77℃、試験時間は3時間です。
この条件で、材料間の差が“数字”として明確に出ています。
腐食速度(mm/年)の比較(試験結果)
- チタン/IPゴールドチタン:0.00 mm/年(極めて良好な耐食性)
- SUS304:1.27 mm/年(腐食速度が大きく、孔食も発生)
- アルミニウム:5 mm/年以上(非常に高い値)
※出典:提供資料(川湯温泉水・浸漬試験結果)
設計者視点での意味
腐食速度は、材料が“どれだけ早く薄くなるか”の目安です。
0.00mm/年という結果は、少なくとも試験条件下で実用上、減肉がほぼ進まないことを示唆します。
一方、SUS304やアルミは短い期間でも減肉・孔食が問題化し得ます。
温泉チタンの価値は「錆びにくい」だけでなく、
交換計画を立てなくてよい、あるいは交換頻度を極小化できる点にあります。
ここで重要なのは、材料費の比較に留めないことです。
温泉環境では、材料が先に負けると、次のコストが連鎖します。
足場・安全管理・休業・景観回復・クレーム対応──これらを合計したとき、
初期費用が多少高くても、チタンが最終的に最大のコストパフォーマンスになるケースが多くなります。
現場で起きる“短期劣化”の例:浸漬暴露・ボルト
(1)登別温泉源泉での浸漬暴露:SUS304・アルミが“溶けている”
登別温泉源泉での浸漬暴露試験について報告します。
左SUS304、チタン、アルミ合金で、暴露4か月経過時点でアルミとSUSは溶けています。
温泉腐食が“想像以上に速い”ことを端的に示しています。
(2)ボルトの比較:亜鉛メッキ鋼は短期間で腐食、チタンボルトは安定
「温泉で金属が錆びる」問題は、実は板材や本体よりも、
ボルト・ナット・固定金物で先に顕在化しがちです。
川湯温泉水を用いた浸漬暴露で、
亜鉛メッキ鋼ボルトは日単位~週単位で著しく腐食していく一方、
チタン製ボルトは3週間後も外観が保たれていることが示されています。
ボルトが先に劣化すると、起きるのは単なる“交換”ではありません。
締結部の強度低下、安全リスク、部材脱落の恐れ、そして定期点検・補修の手間が増えます。
温泉地の建築では、構造・安全に関わる最小部材(ボルト)から設計するという発想が有効です。
設計判断の結論:チタンが最大コスパになる理由(30年TCO)
「チタンは高い」という印象は、材料単価だけを見たときの話です。
温泉地では、材料の更新が“運用コストの本体”になります。
ここでは簡易に、30年のTCO(Total Cost of Ownership)として整理します。
温泉地TCOで効くコスト項目
- 材料費:初期に一度だけ発生(チタンはここが高い)
- 交換費:部材代+施工手間(回数が増えるほど増大)
- 足場・養生・安全管理:現場条件により高額化しやすい
- 休業・導線制限:オーナー側の損失(観光地ほど重い)
- 景観回復・清掃:錆汁・汚れはブランド毀損に直結
添付資料の試験結果では、純チタン(温泉チタン)は腐食速度0.00mm/年という示唆があり、
SUS304やアルミは腐食速度が大きい値を示しています。
つまり温泉腐食の前提に立つと、チタンは「交換回数を劇的に減らす」可能性が高い材料です。
これが、長期耐久性や安全性から見たときの最大コストパフォーマンスにつながります。
建築の意思決定としては、材料単価の勝負ではなく、
更新計画(交換頻度)を含めた仕様設計として判断するのが合理的です。
温泉地では「安い材料を何度も替える」より、「替えない材料で運用を安定させる」ほうが、
結果としてコストもリスクも小さくなります。温泉チタンはその選択肢の中心にあります。
温泉地の推奨適用部位(グレーチング・ボルト・屋根・看板 等)
温泉地での採用・試験施工の例が増加しております
温泉腐食の“被害が大きい部位”から優先順位を付けるのがコツです。
グレーチング(源泉周辺・排水)
源泉付近は腐食条件が最も厳しく、定期交換が常態化しがちです。
添付資料では、登別・泉源公園のグレーチングにチタン製を導入した試験施工例があります。
観光動線の要となる場所ほど、チタンの価値は大きくなります。
ボルト・ナット(安全・維持管理の要)
温泉で金属が錆びる問題は締結部から始まります。
亜鉛メッキ鋼の劣化が早い環境では、チタンボルトの採用が効果的です。
「本体は大丈夫でも固定具が先に朽ちる」リスクを、仕様で潰せます。
屋根(非意匠・意匠どちらも)
温泉地は空気中にも腐食因子が漂い、屋根・庇・板金で劣化が進むことがあります。
長期での漏水リスク低減・更新回数の削減に寄与します。
看板・サイン(景観・ブランド)
温泉地は景観価値が高く、錆汁や汚れはブランド毀損につながります。
外観を長く保つことは、運用コストだけでなく、観光地の価値維持にも直結します。
すべてを一気にチタン化する必要はありません。
まずは「源泉に近い」「交換が面倒」「安全に関わる」「景観に直結」の順で、
温泉チタンの適用範囲を段階的に広げるのが現実的です。
仕様の注意点:異種金属接触(電食)と納まり
チタンは温泉腐食に強い一方で、建築金物としては納まり(取り合い)が重要です。
特に注意したいのが、異種金属が接触し、電位差によって腐食が進む電食です。
温泉地は電解質(イオン)が豊富になりがちで、電食リスクが顕在化しやすい側面があります。
実務で効く“3つの基本”
- 異種金属は直接接触させない:絶縁ワッシャ・樹脂スペーサー等で分離。
- 水が溜まらない納まり:水抜き・勾配・通気で「濡れっぱなし」を避ける。
- 締結材を先に強くする:温泉で金属が錆びる起点はボルトになりやすい。
当社では、案件条件(泉質・温度・塩化物・設置位置)と部位(ボルト/グレーチング/屋根/サイン等)に応じて、
仕様の考え方を整理した資料をご用意できます。設計段階で一度すり合わせることで、運用の不確実性を減らせます。
よくある質問(FAQ)
Q1. 温泉地ならステンレス(SUS304)で十分では?
温泉腐食の条件(強酸・高温・塩化物)が重なると、SUS304でも孔食や減肉が進むことがあります。
SUS304は腐食速度1.27mm/年(孔食発生)という結果が示されています。
条件が厳しいほど、温泉チタンの優位性が大きくなります。
Q2. 「温泉で金属が錆びる」のを止めたい。最優先はどこ?
優先順位は、①源泉・蒸気に近い部位、②安全に関わる締結部(ボルト)、③交換が難しい部位(足場が必要)、
④景観価値の高い部位(サイン等)の順がおすすめです。部分最適でも効果が出ます。
Q3. チタンは高いのでは?
材料単価は高い傾向がありますが、温泉地では更新費(足場・休業・安全管理)が支配的になりやすいです。
交換頻度を下げられる材料は、30年TCOで最終的に安くなることが多く、これが“最大コスパ”の本質です。
Q4. 温泉チタンの「錆びない」は本当?
100%の断定はできません(泉質・条件で変わるため)が、試験結果では純チタンは腐食速度0.00mm/年という示唆が示されています。
少なくとも、同条件でSUS304・アルミより優位である根拠データがあり、材料選定の合理性が高いといえます。
温泉地の腐食設計、最初から強くする
「温泉腐食の条件(pH・温度・塩化物)」「適用部位」「求める意匠」を共有いただければ、
温泉チタンを含む最適仕様の考え方をご提案します。
まとめ|温泉×チタンは「耐久」と「運用」を同時に設計できる
温泉で金属が錆びる(温泉腐食)は、素材の見た目だけでなく、安全・維持管理・景観価値に直結する課題です。
試験結果では、純チタンが腐食速度0.00mm/年という示唆を示し、SUS304やアルミとの差が明確です。
だからこそ、温泉チタンは「長期耐久性」「安全性」「更新費の抑制」という観点から、
最終的に最大のコストパフォーマンス(TCO最小)を得やすい選択肢になります







