このたび、東洋ステンレス研磨工業株式会社は、第10回「ものづくり日本大賞」九州経済産業局長賞を受賞いたしました。受賞対象となった技術は、当社が30年以上にわたり蓄積してきた複合研磨技術 ― 複数の研磨工程を独自に組み合わせることで、鏡面・半光沢・マットなど多彩な表面表情をひとつの金属パネル上に実現する技術です。この技術の代表的な成果が、水面のような揺らぎ感を持つ意匠ステンレスパネル「ミステリアスミラー®」です。
本コラムでは、受賞の概要とともに、ミステリアスミラー®を支える複合研磨技術の本質、プレス加工との根本的な違い、そしてこの技術が拓く意匠ステンレス・意匠チタンの可能性について、全国の建築家・デザイナーの皆さまにお伝えさせていただきます。
目次
1. 第10回「ものづくり日本大賞」九州経済産業局長賞 受賞のご報告
2. 複合研磨技術とは何か
3. プレス加工との根本的な違い ― 思想・作り方・見え方
4. 複合研磨技術が生むミステリアスミラー®の多彩な表情
5. 日本が生んだ技術 ― 文化と風土を金属に込める
6. 材料から製品まで一気通貫 ― 1枚からのカスタマイズ対応
7. サステナブルな金属で持続的な社会へ
8. まとめ ― 設計者の皆さまへ
1. 第10回「ものづくり日本大賞」九州経済産業局長賞 受賞のご報告
「ものづくり日本大賞」は、製造・生産現場の中核を担う人材や、伝統的・文化的な「技」を支える熟練人材、今後を担う若年人材など、ものづくりの第一線で活躍する方々を顕彰する制度です。平成17年の第1回から数え、今回で10回目を迎えます。
弊社は今回、この「ものづくり日本大賞」において九州経済産業局長賞を受賞いたしました。受賞対象となったのは、ミステリアスミラー®の製造を支える複合研磨技術です。30年以上にわたる技術の蓄積と、複数の研磨・成形プロセスを独自に組み合わせて進化させてきた弊社のコア技術が、日本のものづくりの発展に寄与するものとして評価されました。
この受賞は、弊社の技術者一人ひとりの日々の研鑽の結果であるとともに、ミステリアスミラー®をご採用いただいてきた建築家・デザイナー・施工者の皆さまの信頼に支えられたものです。改めて感謝を申し上げます。

受賞情報
名称:第10回「ものづくり日本大賞」九州経済産業局長賞
対象技術:3D金属意匠デザインパネルを活用した空間デザインの質向上
主催:経済産業省
2. 複合研磨技術とは何か
複合研磨技術とは、単一の研磨工程ではなく、複数の研磨・成形・表面処理技術を独自に組み合わせ、融合させることで、従来の金属加工では不可能だった表面表現を生み出す技術です。当社はこの技術を30年以上にわたって進化させてきました。
一般的に金属の表面仕上げは、ヘアライン・バイブレーション・鏡面・ブラストなど、ひとつの工程で完結するものがほとんどです。しかし弊社の複合研磨技術は、これら複数の研磨技術に加え、3次元成形技術、グラインディング研磨、バフ研磨、ブラスト処理などを、素材の特性と最終的な意匠イメージに応じて最適な順序と条件で組み合わせます。
この「組み合わせの設計」こそが、弊社のコア技術です。どの工程を、どの順番で、どの条件で行うか ― その無数の組み合わせのなかから最適解を導き出す知見は、30年の実験と経験の蓄積によってのみ得られるものであり、設計図や手順書だけでは再現できない、人と技術が一体となったものづくりの結晶です。
3. プレス加工との根本的な違い ― 思想・作り方・見え方
市場には「3Dステンレスパネル」と呼ばれる製品が複数存在します。その多くはプレス加工(金型プレスやエンボス加工)によって製造されたものです。ミステリアスミラー®は、これらのプレス加工品とは根本的に異なります。その違いは、思想・作り方・見え方のすべてに及ぶ違いです。
| 比較項目 | プレス加工による3Dパネル | ミステリアスミラー®(複合研磨技術) |
|---|---|---|
| 思想 | 金型で「形」を押す。パターンの再現性・量産性を重視。 | 複数の研磨・成形技術を融合し、「光の表情」を設計する。表面の質感・反射特性・揺らぎ感を総合的にコントロール。 |
| 作り方 | 金型による一工程のプレス成形。表面仕上げは成形後に別途実施。 | 研磨・成形・再研磨を複合的に繰り返す多段工程。工程の順序・条件が表情を決定する。30年の知見による工程設計。 |
| 見え方 | 均一なパターンの繰り返し。幾何学的で規則的な印象。反射は一様。 | 不規則で有機的な揺らぎ。水面のように光が流れ、視点や光源の変化に応じて表情が変わる。鏡面・半光沢・マットが共存。 |
| 表面の質 | プレス時の応力痕や金型跡が残りやすい。表面品質は金型精度に依存。 | 研磨工程が最終仕上げを兼ねるため、表面品質が高い。鏡面の深い映り込みや柔らかな半光沢など、繊細な質感表現が可能。 |
| カスタマイズ性 | 金型単位でのパターン変更。金型製作コストが必要。 | 金型不要。研磨条件の調整で表情を変えられるため、1枚から柔軟なカスタマイズが可能。 |

プレス加工が「形の再現」を目的とするのに対し、ミステリアスミラー®の複合研磨技術は「光の表情の設計」を目的としています。自然界の水面は、規則的なパターンの繰り返しではありません。不規則で、有機的で、光の条件によって刻々と表情を変える ― その本質を金属の上に再現するためには、プレスの金型では到達できない、研磨と成形の融合による多層的なアプローチが必要となります。
この違いは、実物を手に取れば一目でお分かりいただけます。プレス加工品の均一なパターンとは明らかに異なる、複合研磨技術でしか生まれない有機的な揺らぎと深い映り込み。それがミステリアスミラー®の本質であり、30年の技術蓄積がもたらす唯一無二の表情です。
4. 複合研磨技術が生むミステリアスミラー®の多彩な表情
今回受賞した技術の真価は、ミステリアスミラー®の表面表情の幅広さに表れています。「鏡面の3Dパネル」と一言で言われることもありますが、実際には複合研磨技術によって、はるかに多彩な表現が可能です。
複合研磨技術が実現する表面表情
■ 鏡面(フルミラー):映り込みが鮮明で、周囲の景色や照明がはっきりと反射する。水面に空や木々が映り込むような深い反射感。
■ 半光沢(セミグロス):鏡面ほどの鮮明な映り込みはないが、穏やかな光沢と柔らかな反射を持つ。朝霧のかかった水面のような、落ち着いた美しさ。
■ 半鏡面:映り込みのある領域とない領域が共存する表情。光のコントラストが強調され、立体感と奥行きが生まれる。
■ マット(マットミラー):光沢を抑え、落ち着いた質感の揺らぎを表現。銀鱗(Ginrin)のマットモデルはこの表現の好例であり、個人邸のサウナ室の反射板にも採用されています。
■ 複合表情(鏡面+マット共存):1枚のパネル上に、鏡面部分とマット部分が共存する表情。研磨条件の変化によってグラデーションを生み出し、1枚の中に多層的な光の物語を描く。

これらの表情は、プレス加工後に塗装やフィルムで変化をつけるのではなく、すべて研磨工程の組み合わせだけで実現しています。金属の表面そのものを物理的に変化させているため、剥がれや色褪せのリスクがなく、設置したそのままの状態で長期にわたり美観を維持します。
建築家やデザイナーにとって、これは「ひとつの素材で複数の空間表現を選べる」ことをが可能です。同じミステリアスミラー®でも、フルミラーを選べば華やかなエントランスに、マットモデルを選べば静謐な空間に、半光沢を選べば上質なオフィスラウンジに ― 空間のコンセプトに合わせて、光の表情を自在にコントロールできます。
5. 日本が生んだ技術 ― 文化と風土を金属に込める
ミステリアスミラー®の複合研磨技術は、日本が生んだ技術です。
日本には、素材そのものの質感や光の表情を大切にする美意識があります。漆器の奥行きのある光沢、陶磁器の釉薬が見せる微妙な色の変化、和紙を透過する柔らかな光 ― 表面の「質」に美を見出す感性は、日本の文化と風土が育んできたものです。
ミステリアスミラー®の複合研磨技術は、この日本的な美意識を金属の表面処理技術に昇華させたものと言えます。鏡面の深い映り込み、半光沢の柔らかさ、マットの静けさ ― これらの表情は、「光と素材の対話」を重視する日本のものづくり哲学から生まれました。量産型のプレス加工がパターンの均一性を追求するのに対し、複合研磨技術は「揺らぎ」や「不均一さのなかの美しさ」を意図的に設計します。この発想そのものが、日本のものづくりの独自性であり、他国との大きな差別化要因です。
弊社は、この技術を日本の意匠ステンレス、意匠チタンにさらに活かしていきたいと考えています。水面の揺らぎだけでなく、水明(SUIMEI)が表現する大海原の躍動、JEUX D’EAU(ジュ・ドー)が描く水の戯れ、銀鱗(Ginrin)が見せる麒麟の鱗のきらめき ― これらのモデル名が示すように、ミステリアスミラー®は日本の自然や風景を金属の上に映し取る試みでもあります。日本の文化と風土を、このものづくり大賞技術に込め、世界の建築空間に届けていくこと。それが私たちの使命です。
6. 材料から製品まで一気通貫 ― 1枚からのカスタマイズ対応
東洋ステンレス研磨工業は、「ステンレス鋼の発展」という目的のもとに設立された会社です。素材としてのステンレスの可能性を最大限に引き出すことが、創業以来変わらない私たちの原点です。
この原点があるからこそ、当社は材料の調達から研磨・成形・仕上げ・パネル加工まで、一気通貫で自社工場内に完結する生産体制を整えています。外注に分業する必要がないため、工程間のロスやコミュニケーションのずれが発生せず、品質と納期を精密にコントロールしています。
この一気通貫体制のもう一つの大きなメリットは、1枚からのカスタマイズ対応が可能であることです。プレス加工の場合、金型製作にコストと時間がかかるため、少量の特注対応は現実的に困難です。しかし当社の複合研磨技術は金型を必要としません。研磨条件の調整によって表情を変え、切断・曲げ・パネル加工まで社内で完結できるため、1枚からでも柔軟にカスタマイズ対応が可能です。

一気通貫加工の強み
■ 材料調達:ステンレス鋼(SUS304・SUS316L等)、チタン(純チタン1種・2種)、アルミニウムなど、用途に応じた最適素材を選定・調達。
■ 研磨・成形:複合研磨技術によるミステリアスミラー®の3D成形。バフ研磨・グラインディング・ブラストなど複数工程を社内で実施。
■ 仕上げ・加工:切断・曲げ・溶接・パネル加工・表面保護フィルム貼りまで、すべて自社工場内で完結。
■ 1枚対応:金型不要のため、1枚からのオーダーに対応。試作1枚からスタートし、本採用後に追加発注という段階的な導入も可能。
■ 特注サイズ:最大原板サイズ1,219mm×2,438mm(マザー母材サイズ)の範囲内で、ご指定の寸法に対応。
建築家やデザイナーにとって、「試しに1枚」から始められることは、新しい素材を設計に取り入れるハードルを大きく下げます。小さなプロジェクトでも、プロトタイプとしても、まず1枚を手に取って空間に当てて確認できる。この手軽さは、一気通貫の生産体制だからこそ実現できるものです。
7. サステナブルな金属で持続的な社会へ
ミステリアスミラー®の主素材であるステンレス鋼は、100%リサイクル可能な金属です。建物の改修や解体時にも、産業廃棄物ではなく有価物として回収され、新たなステンレス製品に生まれ変わります。同様にチタンもリサイクル可能な金属であり、循環型社会に完全に適合した素材です。
塗装やフィルムで意匠性を持たせた建材は、解体時に塗膜やフィルムの分離処理が必要になり、リサイクルの妨げとなることがあります。一方、ミステリアスミラー®は研磨工程だけで意匠を実現しているため、表面に塗料もフィルムも存在しません。そのまま金属としてリサイクルルートに乗せることができます。
さらに、研磨だけで意匠を実現するということは、「剥がれない」「色褪せない」「交換の必要がない」ことを意味します。これは、建物のライフサイクル全体で見たときの廃棄物の削減とメンテナンスコストの低減に直結します。サステナブルな金属を、サステナブルな加工方法で、サステナブルに使い続ける ― ミステリアスミラー®は、意匠性と持続可能性を両立する建材です。
私たちは、リサイクル可能なステンレス鋼やチタンといったサステナブルな金属を用いて、持続的な社会を形作るお役に立ちたいと考えています。
8. まとめ ― 設計者の皆さまへ
第10回「ものづくり日本大賞」九州経済産業局長賞の受賞は、ミステリアスミラー®を支える複合研磨技術が、日本のものづくりとして認めらました。
プレス加工による3Dステンレスパネルとは、思想も作り方も見え方も根本的に異なります。30年かけて蓄積した複合研磨技術は、鏡面・半光沢・半鏡面・マット、そしてそれらの共存 ― 金型では到達できない多彩な光の表情を、1枚のパネルの上に実現します。
日本の文化と風土が育んだ美意識を金属に込め、サステナブルな素材で持続可能な空間をつくる。材料から製品まで一気通貫の加工体制で、1枚からカスタマイズに対応する。これが、東洋ステンレス研磨工業のミステリアスミラー®です。
全国の建築家、デザイナー、空間設計者の皆さま ― 「ものづくり日本大賞」受賞技術「3D金属意匠 複合研磨技術」で生まれる光と水の表情を、ぜひ実物サンプルでご確認ください。設計段階からのご相談を、心よりお待ちしております。
本コラムのポイントまとめ
✓ 第10回「ものづくり日本大賞」九州経済産業局長賞を受賞
✓ 受賞対象は、ミステリアスミラー®を支える30年超の複合研磨技術
✓ プレス加工とは思想・作り方・見え方が根本的に異なる
✓ 鏡面・半光沢・半鏡面・マット・複合表情など多彩な表面表現が可能
✓ 日本の文化と風土が育んだ美意識を金属に込めた、日本発の技術
✓ 材料から製品まで一気通貫の加工体制。1枚からカスタマイズ対応
✓ ステンレス・チタンは100%リサイクル可能。サステナブルな建材
ミステリアスミラー®のサンプル請求・ご相談
複合研磨技術による多彩な表面表情を実物サンプルでご確認いただけます。ZOOMでのリモートショールーム案内、空間コンセプトに合わせたモデルのご提案まで対応しています。
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※ ミステリアスミラー®、金属化粧師®は東洋ステンレス研磨工業株式会社の登録商標です。
※ 「ものづくり日本大賞」は経済産業省・国土交通省・厚生労働省・文部科学省が連携して実施する顕彰制度です。
※ パネルの見え方は設置環境の照明条件・観察角度により異なります。採用前に必ず実物サンプルでご確認ください。







